中華民国―賢人支配の善政主義 (中公新書)



中華民国―賢人支配の善政主義 (中公新書)
中華民国―賢人支配の善政主義 (中公新書)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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混沌を見事に整理

辛亥革命から中国共産党政権樹立までの38年間―中国史の専門家でもない限り、中華民国の時代は中国近現代史のなかでも最もわかりにくいメチャクチャな時代じゃないかと思う。建国後、一時的に孫文がトップに立つも、そのあとは袁世凱、黎元洪、段祺瑞と、名前はどこか聞いたことあるけど、なにをしたのかよくわからない人物のオンパレード。少なくとも私に限って言えば、蒋介石の北伐や西安事件など、有名な史実が中華民国にとってどんな意味があったのかも、知っているようで実はかなりあやふやだ。その上に中華民国臨時政府や維新政府や汪兆銘政権など、日本とかかわりの深い面々の動きも途切れることなく続いている。かくも混沌とした中華民国の歴史をコンパクトに読みやすくまとめた好著がこれ。中華民国の歴史は戦後中国を語る上でも重要なので、基礎知識を補充するつもりで熟読しましょう、ということで★五つ。
近現代中国史の理解への大きな助けとなる

 近現代中国史を勉強するとき、その妨げとなる次の二つのような大きな問題がある。一つには、清朝末期から共産中国の成立までの中国大陸は非常に混沌としていて、つかみ所がないこと。第二に、非常に高度に政治的な問題から、一面的な角度からしかとらえられていないことが多いことである。つまり、孫文や毛沢東を中心にして、日本はひたすら悪役としての役割が強調されすぎていることなどである。
 本書は、このような点を乗り越えて、特に特定のイデオロギーから解放されて、ひたすら実証的に中華民国という政権について描写、論証する。そこでは特定の人物や政権を必要以上に過大評価もしないし矮小化もしない。特定の史観にもとづいて歴史的事象を取捨選択もしない。
 派手なおもしろさはないかもしれないが、誠実な実証主義的研究は、わかりにくかった近現代中国史の構図を整理し、これまで十分見られなかった側面を我々に示してくれる。
革命と伝統と

 本書は、辛亥革命から人民共和国成立までの約40年間を対象に、民国激動の歴史を簡潔かつ平易に解説するものです。
 筆者は辛亥革命の性格に関し、社会・経済体制の変革という意味での「revolution」という側面のほか、伝統的な王朝交代論理としての「易姓革命」としての側面があり、この両者の絡み合いが民国の政治史を複雑かつ流動的なものにしたとしています。孫文と宋教仁、北洋政府と国民政府、国民党と共産党など、民国史を彩る様々な対立軸をそうした視点から分析してみると確かに面白いかもしれません。
 また、この易姓革命的な側面は、伝統的な社会・文化意識が辛亥革命後も大きな意味をもち続けたことをも意味するようです。孫文は徹底した愚民観の持ち主であり、賢人集団の前衛たる国民党こそが中華の民の救世主の役割を担うべきと考えていたとのことですが、これも伝統中国における士大夫階級の「先知先覚」としてのエリート意識と通じるものがあるようです。現代中国の共産党一党支配についても、「賢人支配の善政主義」は正統性の論理として無縁ではないように思われます。
 辛亥革命や共産革命といった大変革を経てもなお、三千年来の伝統的価値体系には変わらない部分があるのだということでしょうか。「Old habit die hard」とはよく言ったものですね。
 いずれにせよ、オリジナリティの高い面白い本です。筆者の主張に賛成するか否かは読む人の判断ですが、様々な見方に触れるという意味で、多くの人に一読をおススメしたいと思います。
辛亥革命から共産中国誕生までの、中華民国時代の通史

偏らない立場、しっかりした資料批判に則った記述で非常に好感が持てる。看過されがちな孫文の権威主義的側面を炙り出す一方、悪名高い袁世凱が若い頃、康有為の変法運動に共感を示し、彼なりの愛国心・外圧への危機感を持っていたと指摘するのがその一例である。また『孫文中心史観』とも言うべき立場では、無視されがちな、十二年間正統な政権であった軍閥持ち合いの北京政府の役割の重要性、蒋介石による北伐戦争による北京政府からの政権奪取、国民党独裁の南京政府の成立を一種の「革命」と認識するのも著者が丁寧に資料を読んでいるからこそ導き出される結論だと思う。中華民国から人民中国まで、副題の「賢人支配の善政主義」という一種の大衆への愚民観が貫かれているという点が著者が本書を著すにあたっての基本的認識であると思われる。再読するたびに新たな示唆が得られる中国近現代史の良質の通史だと思われる。
得がたい本

政治的にも微妙な問題が多い問題を公平に、またずいぶんと明晰に書いている本です。また類書にあるような「引用だらけ、漢文だらけ」といった読みにくさもありません。また「天命」「善政」といった伝統的な中国権力者の言葉をさりげなく皮肉な意味に使っているところが心憎い限りです。エレガントですらあります。



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